Takato Ishida

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研究内容

ソフトマテリアルのマルチスケール劣化解析

 SDGs目標をはじめとする国際的な地球環境問題への意識への高まりから,「材料の長期利用」が重要視されています.廃プラスチック問題にもつながるソフトマテリアルを使用する分野での取り組みはこれまでより一層厳しい目で見られることになるでしょう.特に,工業利用のソフトマテリアルは経年に伴う物理化学的性質変化によって要求性能を満足できなくなる「劣化現象」をよく理解することが重要です.
 劣化現象はミクロな劣化反応に始まり,それに伴って起こる「切断」や「架橋形成」といった分子鎖の形態変化が材料内部の微視的構造を変化させます.最終的には,それらの微視的な変化が蓄積・スケールアップしてマクロ物性の低下へとつながります.そのような劣化機構の全貌を把握しようとすると,スケールを横断した包括的かつ多角的な材料分析が必須になります.我々は材料劣化の描像を把握する一連のプロトコルである「マルチスケール劣化解析」により,光(紫外線)劣化や熱劣化を受ける種々の高分子系材料の劣化解析を行っています.

参考論文
  • T. Ishida, R. Kitagaki, H. Hagihara, Y. Elakneswaran Polym. Test., 96, 107123 (2021).
  • T. Ishida, R. Kitagaki, R. Watanabe, H. Hagihara, Y. Elakneswaran, H. Shinzawa Polym. Degrad. Stab., 179 109242 (2020).
  • T. Ishida, R. Kitagaki, S. Yamane, H. Hagihara Polym. Degrad. Stab., 162, 85-93 (2019).

化学反応kineticsとNetwork Architectureの時間発展

 ネットワーク構造を持つ熱硬化性樹脂や高分子ゲルは様々なアプリケーションがあり,多くのシーンで利用されています.その反応ダイナミクスと内部ネットワーク構造の関係は当然重要で,1940年代のFlory, Stockmayerによる「ゲル化理論(gelation theory)」から今日に至るまで研究が続いています.我々は,架橋反応によってネットワークが「作られていく」過程と,劣化に伴う分子鎖の切断によりネットワークが「崩れていく」過程の両方を研究しています.結合の反応率を変数として記述される古典ネットワーク理論と想定される反応機構のkineticな解析の組み合わせは相性が良く,種々の系におけるNetwork Architectureの時間発展を理解する上で強力な武器になります.これまでに,分子切断に伴うネットワークの乱れが引き起こす“脱ゲル化(degelation)”は大規模な構造転換のトリガーになり得ることを示しました.これはネットワーク構造を持つ樹脂材料の”構造的”材料寿命と言えるものであると考えており,引き続き多角的な検討から妥当性の検証を試みている.

参考論文
  • T. Ishida, E. Richaud, M. Gervais, A. Gaudy, R. Kitagaki, H. Hagihara, Y. Elakneswaran Prog. Org. Coatings, 163, 106654 (2022).
  • T. Ishida, R. Kitagaki, H. Hagihara, Y. Elakneswaran Polymer, 186, 122035 (2020).

高分子劣化のマルチスケールシミュレーション: 分子ダイナミクスから物性変化まで

 近年,マテリアルズインテグレーション(以下,MI)といって理論モデルやシミュレーションを介して計算機上で得られた材料特性・パフォーマンスを材料開発プロセスへとフィードバックすることにより,材料開発を加速させようとする試みが広く行われています.これはデータ駆動型材料科学とも言われていて,マテリアルズ・インフォマティクスもMIに内包されています.
 長期間利用可能な材料開発を加速するためには,材料劣化に伴う分子運動変化の様相,即ち分子鎖のナノスケールダイナミクスの変化を計算機上で再現可能な「マルチスケール劣化シミュレーション基盤」を構築する必要があります.ミクロからマクロにかけて各スケールで起こる現象を有効に記述しうるシミュレーションエンジンを連成したプラットフォームの構築に向けて検討を進めています.

石田 崇人 / Takato ISHIDA
名古屋大学大学院 工学研究科 物質科学専攻
レオロジー物理工学研究グループ
日本学術振興会 特別研究員 PD

E-mail: ishida[at]mp.pse.nagoya-u.ac.jp

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