Takato Ishida

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研究内容

高分子劣化のマルチスケール分子シミュレーション

 SDGs目標をはじめとする国際的な地球環境問題への意識への高まりから,「材料の長期利用」が重要視されています.廃プラスチック問題にもつながる高分子材料を使用する分野での取り組みはこれまでより一層厳しい目で見られることになるでしょう.そこで,高分子材料が実際の環境で使用される中で光や熱に曝されることによって起こる「劣化現象」をよく理解することが重要です.

 実際に材料が長期にわたって利用される中でゆっくりと時間をかけて変質する劣化のほとんどは,空気中の酸素とラジカルを介した「酸化劣化」によって起こっています.ラジカルは非常に反応性が高く,ある種の「劣化の源」のようなものだと言えます.2000年代に劣化の源であるラジカルが飛び火することで,あたかも感染症が伝播するように高分子の劣化が進行することが実験で可視化されました.これを計算機上で表現し,反応機構もリアルな劣化と矛盾しない分子シミュレーション法を構築しました.これまでの研究から,ミクロレベルの酸化劣化の不均一性はラジカル反応と高分子の緩和時間のタイムスケールの競合によって生じることを示しました.最近はこれをより大きいマクロスケールへ展開できるよう研究を進めています.

参考論文
  • T. Ishida*, Y. Doi, T. Uneyama, Y. Masubuchi, Macromolecules, 56(21), 8474-8483, 2023.
  • T. Ishida*, Y. Doi, T. Uneyama, and Y. Masubuchi, Polym J, doi: 10.1038/s41428-024-00942-5, 2024.

ケミカルリサイクルを志向した高分子の化学分解シミュレーション

 ケミカルリサイクルは化学的分解を経て,プラスチックをクリーンな化学原料へ再還元する方法であり,樹脂材料の完全リサイクルを目指せることからカーボンニュートラル実現へ高い期待が寄せられているリサイクル方式です.ケミカルリサイクル技術の再資源化効率はまだまだ改善の余地があると言われていて,計算科学との連携による分解プロセス設計の最適化を進めることでなんと年間1億トン以上のCO2排出量低減につなげられるという指摘もあるくらいです.我々の計算機シミュレーションによる支援でケミカルリサイクルを加速することを目論んでいます.現状では,ロバストかつ経済的であることから頻繁に用いられている熱分解については粗視化分子シミュレーションによって計算機上で表現する手法を構築しました.

参考論文
  • T. Ishida*, Y. Doi, T. Uneyama, Y. Masubuchi, Macromolecules, 56(21), 8474-8483, 2023.
  • T. Ishida*, Y. Doi, T. Uneyama, and Y. Masubuchi, Polym J, doi: 10.1038/s41428-024-00942-5, 2024.

先端分析化学と連携した高分子劣化のキャラクタリゼーション

 高分子劣化のキャラクタリゼーションには,各種分析化学的手法を複数組み合わせて多角的に状況証拠を収集して理解を深めていく必要があります.分析機器は日進月歩で進化を遂げており,機器から出力される高精細な分析データはもはやビッグデータと見るべきものとなってきています.さらに,高分子劣化に伴って化学構造や高次構造は複雑化し,分析データを読み解き,劣化機構を反映した特徴的なシグナルを拾い上げるのは簡単ではありません.劣化時間を系統的に変化させて収集した質量分析や分光分析のデータをインフォマティクス(データ科学)の手法と連携することで劣化機構の深掘りにつなげることができます.これまでに有効な解析例を示すことができた分析はFTIR, EGA-MS, PyGC-MSなどがあります.

参考論文
  • T. Ishida*, R. Kitagaki, Y. Elakneswaran, J. Mizukado, H. Shinzawa, H. Sato, H. Hagihara, R. Watanabe, Macromolecules, 56 (3), 883–891, 2023.
  • T. Ishida*, R. Watanabe, H. Hagihara, J. Mizukado, R. Kitagaki, Y. Elakneswaran, Polymer Testing, 112, 107587, 2022.
  • T. Ishida*, R. Kitagaki, R. Watanabe, H. Hagihara, Y. Elakneswaran, H. Shinzawa, Polymer Degradation and Stability, 179, 109242, 2020.

ラジカル分解反応の速度論的モデリング

 ラジカル反応の速度論をいくつかの系を対象に構築する仕事をしています.これまでは主に酸化劣化の反応速度論を構築してきていて,自動酸化機構の中で生じる切断や架橋といった分子鎖形態変化の素過程をカウントすることで劣化に伴う分子量分布や物性の変化と接続することを期待できます.

参考論文
  • T. Ishida*, E. Richaud, M. Gervais, A. Gaudy, R. Kitagaki, H. Hagihara, Y. Elakneswaran Prog. Org. Coatings, 163, 106654, 2022.
  • T. Ishida*, E. Richaud, H. Hagihara, and R. Kitagaki,  Macromolecular Symposia, 413(4), 2300247, 2024.

セメント系材料における低分子拡散の理論・シミュレーション

 上記の高分子材料のトピックとは異なり,石田のバックグラウンドである建築材料への興味から行っているテーマです.セメント系材料中の低分子拡散は,現代の人々とは切っても切り離せない関係にある鉄筋コンクリート構造物の寿命に深く関わる重要な現象です.内部の鉄筋はかぶりコンクリートといってピュアなコンクリートで覆われて守られていると言えるわけですが,外界から鉄筋を錆びさせたり,それを助長する低分子(二酸化炭素,水,塩化物イオン,硫酸イオンなど)が侵入してくることで部材の健全性は損なわれます.劣化をトリガーする低分子がコンクリート表面からどこまで侵入してきたかが,構造物の信頼性評価には極めて重要で,その拡散現象を如何にして記述するかはセメント,コンクリート系分野では今日でも中心的な課題であり続けています.

 統計物理学の分野で理論構築が進んでいる「揺らぐ拡散性」のフレームワークをセメント系材料中における低分子拡散の記述に適用することに成功しました.その結果,短時間領域では従来の有効拡散方程式による予測と異なって裾が重い非ガウスな拡散変位分布を呈する領域があることがわかりました.非ガウス性が持続している時間領域においては,構造物信頼性評価に影響を与える可能性があります.

参考論文
  • F. Nakai, T. Ishida*, Construction and Building Materials, 407(1), 133411, 2023.
  • F. Nakai, T. Ishida*, J. Soc. Rheol.,  52(2), 83–89, 2024.

石田 崇人 / Takato ISHIDA
名古屋大学大学院 工学研究科 物質科学専攻
レオロジー物理工学研究グループ 助教

E-mail: ishida[at]mp.pse.nagoya-u.ac.jp

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